エンタープライズ組織をアウトカム志向に変革した、プロダクトマネジメント浸透の挑戦

2023/10/19

Flyleでは22年度に続き、23年度もプロダクトマネジメント動向に関する調査レポート「Japan Product Management Insights 2023 」を公開しました。当記事は、調査レポート内でも掲載している、LIFULL社のCPOである大久保慎氏にプロダクトマネジメント組織の立ち上げ・浸透についてインタビューしたものとなります。

調査レポートはこちら:https://biz.flyle.io/resources/pm-insights-report-2023

大久保 慎 氏
株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部
Chief Product Officer プロダクトプランニング部 部長

編集者、エンジニア、コンサルを経て、2006年にLIFULL入社。不動産領域における新規事業立ち上げや既存事業グロースを複数経験後、国際事業立ち上げと海外M&Aに携わり、スペインにある世界最大級の不動産アグリゲーションサイトTrovit Search S.L.(現LIFULL Connect)へ出向。帰国後、スタートアップに転職しサービスのグロースを担当したのち、LIFULL HOME’Sに復帰、複数サービス責任者を経て現職。プライベートではトレイルランニングとテント泊登山とビールを愛し、社内ではサークル「山メシ研究会」を運営。

ープロダクトマネジメントを全社に普及していこうと、決断された背景を教えてください。

最初はCTOの長沢から「プロダクトマネージャー制度を会社全体で導入すべきではないか」と投げかけられたことから始まりました。最初は理解が薄い状況でしたが、プロダクトチームの主要メンバーでプロダクトマネジメントについて学び始めました。

その過程で、プロダクトマネジメントについて書かれた書籍である「Inspired」を読む機会がありました。この書籍には、成熟期に差し掛かったエンタープライズ企業が陥りがちな負のスパイラルについての記述があり、それが全て自社にも当てはまっていることに危機感を抱きました。

例えば、「新しいアイデアの実現に対する障壁が高まり、企業が新しい方向へ進みづらくなる」とか「新しい製品や機能が顧客の手に届くまでに時間がかかるようになる」といった意味合いの課題が、私たち自身で感じていたものとほぼ一致していました。

これについて他のプロダクト系の責任者とディスカッションした結果、やはり共通の課題認識を持っていることがわかり、プロダクトマネジメントを組織全体で導入することで、これらの課題を解決できると確信できました。もちろん、導入においては、ディスカバリーからデリバリーに至るプロセスについて、自社に最適な形にアレンジを加えることも決めていました。

ープロダクトマネジメントを全社に普及させるための具体的な取り組みとは?

危機感への共感がプロダクトマネジメント普及の起爆剤に

初めに、関連する書籍の配布や輪読会などを実施し、基礎知識をインストールしていきました。さらに、エンジニア・デザイナーといったプロダクト系組織のリーダーとも、「プロダクトマネジメントは推進すべき」という合意形成に動きました。危機感や課題への基本的な認識を共有した上で、隔週でプロダクトマネジメント導入に関する会議体を持ち、プロジェクトを推進していきました。

多様なステークホルダー、例えばデザイナーやエンジニアを巻き込みながら、具体的な方針と実行計画を検討しました。当社には約10のプロダクトチームが存在するため、チームごとに対象となるプロダクトマネジメントの取り組みが異なる可能性がありました。

また、「プロダクトマネジメントに熱心な一部の人々だけが取り組んでいる」という状況に陥るリスクも考慮し、課題解決を達成するための全社規模での取り組みが必要だと判断しました。

具体的には、CTO・CCOとも連携し、各プロダクトチームにおけるプロダクトリーダーと連携を取りながら浸透を図りました。

ープロダクトマネジメント推進におけるすり合わせで、苦労した事はありましたか?

現在まで続いているやり方の歴史を理解することが必要不可欠

目指す方向や解決すべき問題点について、共感が得られており、明確であったため、リーダー層での合意で苦労はありませんでした。ただし、その後の具体的な浸透フェーズでは、時間がかかりました。

過去、様々な試行錯誤によって現在まで続いてきた各プロダクトチームのプロセスには、課題だけでなくよい点や合理的な理由があります。

その歴史を踏まえた上でやり方を変える意義を理解してもらい、さらに新しい体制に移行することはやはり苦労しました。

また、プロダクトマネジメントは、エンタープライズにおける国内の事例が十分に出回っておらず、確立されていなかったということもあると思います。

ープロダクトマネジメントの概念が導入される前と後で、どのポイントが変わりましたか?

以前は職種間で、ウォーターフォール型開発に近い進行が基本でした。企画が要求や仕様をまとめ、デザイナーがデザインを作成し、最後にエンジニアが開発を行うという形です。「このタスクは、この職種がすべき」という領域が明確に分かれていました。

プロダクトマネジメントの概念が導入されたことで、プロジェクトの上流から企画、デザイン、エンジニアの3職種が一緒に関わるようになりました。それぞれのプロフェッショナルが企画段階から三位一体となって意見を出し合うことで、それぞれの専門性を反映することができ、企画の質が格段に上がってきたと感じます。

さらに、UXリサーチャーやデータアナリストもプロダクトマネジメントに参加するようになりました。これが全体の品質向上にも寄与しています。

ープロダクトマネジメントを導入した結果、企画のプロセスに多くの人が関わるようになり、その複雑性が増すと思いますが、どのような効果がありましたか?

正直、最初はかなり懸念していました。トライアルとして半年間実施してみたら、確かにデザイナーやエンジニアからは「会議が増えて大変」といった声がよく聞かれました。

しかし、進行していく中で、何が本当に必要で、何が不要かが明確になってきました。結果、創意工夫や最適化が進み、今は逆にプロダクト部門全体のスピードが格段に上がっています。

具体的な数値で言えば、施策のリリース数が1.6倍、成功率は2.8倍に増加しました。さらに、デザイナーやエンジニアが企画の目的や狙いを理解した上で開発に取り組むようになったので、リードタイムも短縮されました。

また、カルチャー的な側面では、プロダクトマネジメント導入以前であれば、ユーザー体験を疎かにして事業数字を優先する場合もありました。あるいは、明確な根拠もなく「この機能を追加すれば、コンバージョンがX倍になる」といった企画もしばしば出ていました。

しかし、プロダクトマネジメントの導入により、そのようなアプローチは不適切であるという共通認識が生まれました。とことんユーザー価値と事業価値の両立に全社で向き合う環境が、つくれていると感じています。

ープロダクトマネジメントを浸透させてこられた経験を踏まえ、これからプロダクトマネジメントの導入を検討されたい方へのアドバイスをいただけないでしょうか?

流行りだからではなく、解決すべき課題を解消できるかが大切

プロダクトマネジメントによって、解決したい課題が何かを明確にしておくことが一番大切だと思っています。

例えばLIFULLの場合には、成熟期の企業にありがちな「スピードが遅い」「保守的になる」「裁量が感じられない」という課題がまずあり、それらを解決すべきだ、という背景がありました。

単に「他の会社がプロダクトマネジメントをしているから始めよう」「トレンドだから取り入れてみよう」は入り口としてはよいと思いますが、それだけの理由で進めると、何を解決したいのかが不明確になってしまい、途中で迷走・頓挫してしまうのではないでしょうか。

ーLIFULL社の今後のプロダクトマネジメント組織をどうされていきたいか、展望を教えてください。

現在、「市場学習回数の最大化」に取り組んでいます。「市場学習回数」とは、仮説立てから効果検証を経てロールアウト(リリース)した施策結果を他部署へ共有し、組織レベルで学習した回数のことを指します。

社内の市場学習回数を増やすことでプロダクトグロースのサイクルを高速で回せるようになり、今まで以上の事業成長が期待できると考えています。仮に1回の市場学習が1%の改善だとしても、毎日積み重ねることで事業成長への貢献は大きくなります。市場検証学習回数を効率的に積み重ね、顧客への提供価値を最大化していくためにも、仕組みとしてプロダクトマネジメントを推進することが重要だと捉えています。

LIFULLでは、プロダクトマネージャーという職種や、プロダクトマネジメント部門という組織形態は採用していません。プロダクトマネジメントとは特定の職種だけが取り組むものではなく、サービス企画、エンジニア、デザイナーそれぞれが協力しながら、取り組むことが重要だと思っています。

本質的な課題解決のために、多様なプロフェッショナルが協働する、最高のプロダクトチームをつくっていきたいと考えています。

LIFULL社のサービス企画チームのnote:https://note.com/lifull_product/
サービスページ:https://www.homes.co.jp/

(2023年7月インタビュー)

76ページにわたる調査レポート「Japan Product Management Insights 2023」は以下の画像をクリック

執筆者

Akira Aiba

株式会社フライル取締役COO

コンタクトセンター・CXのAI変革

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