
プロダクトマネージャーは、自身にドメイン知識がない領域でも、顧客ニーズを探索し、製品へ反映していくことが求められます。しかし、深いドメイン知識が求められる業界や、自分が利用者にはならない領域では、顧客理解や、課題を捉えるソリューション考案は困難を極め、プロダクトディスカバリーの実践に悩まれる方は多いのではないでしょうか。
フライルでは、2022年9月20日に「深いドメイン知識が求められる製品で、PMは顧客ニーズの発見にどう向き合ったか?」をテーマにオンラインセミナーを開催。実際に深いドメイン知識が求められる業界でプロダクトマネジメントに取り組まれる方々をお呼びし、どのようにプロダクトディスカバリーを実践したかをディスカッションしました。本記事でその模様をレポートします。
<登壇者情報>
武政成彦氏
株式会社アダコテック CPO
武蔵野美術大学卒業。メーカーで商品企画、デザイン設計を担当後にフリーランスを経て、株式会社カブクでデジタルものづくりを軸にした事業やプロダクトの開発などを担当。2017年よりラクスル株式会社で印刷事業のデザイン領域で事業責任者兼プロダクトマネージャー。PlatformやSaaSのプロダクト開発、組織のマネジメントに従事。2021年9月に株式会社アダコテックに参画、CPO(Chief Product officer)に就任。林大輔氏
ファーストアカウンティング株式会社 デザイナー/プロダクトマネージャー
2004年8月に楽天株式会社入社。16年間トラベル事業部に所属し「楽天トラベル」のUIデザイナー・デザインマネージャーとして従事。 2021年4月にファーストアカウンティング株式会社入社。ひとり目デザイナー兼ひとり目PMとして、自社プロダクトの新規機能・機能改善のUIデザイン・プロダクトマネジメントやプロダクトビジョンの策定などを担当。<モデレーター>
財部優一
株式会社フライル / 代表取締役CEO
慶應義塾大学卒業後、Fintech系スタートアップZUUの創業期に参画。執行役員として、マザーズ上場までの急成長を経験。事業・組織の急拡大を経験する中で、セールス・CSなど顧客接点を担う部署と開発組織の連携に課題意識を持ち、2020年に株式会社フライルを共同創業。次世代プロダクトマネジメントプラットフォーム「Flyle」の立ち上げに従事。財部:今回のテーマは「深いドメイン知識が必要な領域におけるプロダクトディスカバリー」です。プロダクトディスカバリーとは、ユーザーの問題を深く理解し、次に作る機能を考えるプロセスであると定義しています。
プロダクトマネージャー(PM)の重要な仕事として、自社製品を拡張できる市場のニーズとソリューションを探すプロセスがあります。この「次の拡張領域」を見つけていく上でドメイン知識は不可欠なものとなります。
『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』で「プロダクトマネージャーは“顧客の専門家”として広く認められなければならない。顧客が抱える問題、悩み、欲望、考え方、仕事のやり方や購入の意思決定方法も知るべきである。こうした情報が、毎日下さなければならない多くの判断に、根拠を与えてくれる」と語られているように、ドメイン知識を持ち、顧客の専門家になることの重要性は、PM向けのいろいろな書籍にも解説されています。
一方で、必ずしもPMがドメインエキスパートである必要はないとも考えています。顧客課題の専門家とドメインエキスパートは違うという前提があるからです。主な役割は次の通りです。
顧客課題の専門家
・顧客セグメントと抱えている課題、背景について深く理解している
・顧客理解のために必要な知識を集中的かつ効率的にインプットしている
ドメインエキスパート
・特定分野における高度な専門知識や実務経験を有する(会計士、社労士など)
・資格取得や専門家としての自立のために必要な知識を全体的にインプットしている
PMに求められるのは「顧客課題の専門家」であることです。
一方、専門知識を持つことに対してはメリットだけでなくデメリットもあります。
メリット
・顧客セグメントによっては、自身の原体験や知識を踏まえ課題をかなり深く理解できるというケースがある
・業界構造や法律、慣習など、プロダクト作りや課題の前提を理解しやすい
デメリット
・自身を顧客と同一視し、仮説検証せずに顧客課題を決めつけてしまう
・無意識のうちに、業界の常識の範囲内でのアイディアに収まってしまうことがある
さらに、そもそもPM人材の確保は難しい現状があるため、ドメイン知識もあってPMができる方を採用することは現実的ではないと思います。PMができるがドメイン知識はない方を採用し、その方がドメイン知識を補いながら進めていくことが現実的なアプローチとなります。
まとめると、PMには専門家レベルの知識よりも、関係者(ドメインエキスパートや営業・CS)と連携しつつ、仮説検証を繰り返し、顧客課題を見つける力が重要となります。本日はこれを実現するための具体的な事例やヒントになる内容をお届けできればと思います。
林:ファーストアカウンティングは2016年創業のスタートアップで、エンタープライズ企業の経理部門向けのプロダクトを提供しています。簡単に言うと、領収書や請求書の内容を把握し、AIが処理してくれるプロダクトになっています。元々はAPIベースで提供していましたが、昨年6月にWebブラウザで操作できるプロダクト「Remota」をローンチしました。
ファーストアカウンティング様 サービス紹介ページ
私は前職の16年間で、UIデザイナーとデザインマネージャーを務めたのち、昨年4月に1人目のUIデザイナーとして入社しました。直後、「Remota」というプロダクトがローンチされ、プロダクトマネジメントの必要が出てきたため、私が1人目のプロダクトマネージャーを兼任する形になっています。前職はBtoCの旅行業、現職ではBtoBで経理向けプロダクトということで全く違うフィールドに移ってきたということになります。すなわち経理経験や知識は全くない状態で、社内にPMは1人という中で進めていくことになりました。
今日は「顧客のニーズを探求するための3つのアクション」というテーマでお話をさせていただきます。
経理業界でのホットな話題は当然顧客の関心も高いのですが、顧客自身がそれに対して何をするべきか悩んでいるという実態もあります。PMの役目はドメインエキスパートと連携し、トレンドを理解するだけでなく顧客を理解して、要件に落としていくことです。
例えば、新しい法律への対応の場合、初めに法律の理解を進める必要があります。社内の法務担当者と連携して理解と解釈を進めていきます。
次に、想定されるユースケースを考えていきます。例えば経理業界で今ホットな「インボイス制度」に関して、どういうユースケースがあるか、経理や法務担当者に聞いて理解を深めています。その上で、課題となりそうなことを先回りして考えます。
最後に、顧客の温度感を把握します。「多くのお客様からインボイス制度について言われている」といった事実があれば、優先度を上げて対応していくというような判断をしていきます。
法的にやらなければいけないこともありますが、特に大事なのは「ユースケースを想定すること」「先回りして課題となりそうなことを考えること」です。つまり、より良い世界に導ける要件を考えることがPMの役目であると考えています。
PRDを編集する過程で、ドメインエキスパートと連携してプロジェクトディスカバリーにつなげていくことが重要です。私自身はエンジニアやCSにレビューをもらったり、営業や法務・経理が読んだりする際にわかりやすい形でPRDを書くことを心がけています。連携は主にSlackで行い、他には定例MTGや適宜必要なMTGを設定して理解を深めるアクションをとっていきます。
ユーザビリティテストは、実際にエンドユーザーにプロダクトを触ってもらい、課題やニーズを見つけ出すという作業です。ユーザビリティテストの実施メリットは「エンドユーザーとの接点ができること」。
日頃のコミュニケーションをとる相手はカスタマーであることが多いので、ユーザビリティテストはエンドユーザーと貴重な接点になります。(※エンドユーザー:実際にプロダクトを触る人、カスタマー:プロダクト導入推進者、決裁者、エンドユーザーの上司)
もう1つは「エンドユーザー自身が気づいていない課題・ニーズが把握できること」です。
テストを通じて出てくる課題とニーズはそれぞれ顕在と潜在に分類できます。顕在的な課題は、ユーザビリティ的な使いづらさなどのわかりやすい点。潜在的な課題とは、ユーザー自身は課題だと感じていないけれど、第三者が見るとすごく面倒くさいことをしているように見えるものがあります。
一方、顕在的ニーズは、「こんな機能が欲しい」といった発言などですが、これはニーズというより「ウォンツ」である可能性もあります。どんな業務の中でなぜ必要かを考えることで本当のニーズ=潜在的ニーズを理解できると思います。
こうして洗い出した課題やニーズを、弊社ではFlyleのソリューションとして登録し、優先順位をつけるなどして日々運用をしています。
ユーザーストーリーマップとは、ユーザーの行動とプロダクトに求める価値を時系列で整理し、それを実現するために必要な機能や要件をマッピングしたものとなります。
ユーザーストーリーマップを作る目的は、「メンバーそれぞれの解釈で業務フローを把握している」「業務の全体感の中での各ニーズの立ち位置がわかりづらい」という課題を解決することにありました。
初めにユーザーを洗い出し、業務フローのパターンごとにペルソナを作っていきます。そのペルソナのアクションを時系列で並べ、現在提供している機能と、Flyleのソリューションに上がっている顧客ニーズをプロットして可視化していきます。
ストーリーマップの活用により、ニーズの解像度が上がることや、顧客の業務フローや社内における優先度の共通認識を持つことができるようになることを期待しています。また、今後Flyleのソリューションはユーザーのアクション単位のフォルダ分類に変えていく予定です。
今日は「ニーズの探求」についてお話をしましたが、実際は顧客からの要望対応も多いです。大事なことは、要望もニーズも合わせて正しくプロダクトの価値につなげていくこと。
そして、ひとりPMとしてできることは限られているので、チームでプロダクトマネジメントをすることが大事であると考えています。今日ご紹介した3つのアクションは法務、経理、営業、CS、PMMなどの協力なしでは実現できませんでした。
ファーストアカウンティングにご興味を持たれた方、ぜひお話をさせてください。デザイナー出身のPMの方、私のようにデザイナーとPMを兼任している方もぜひお話をさせてください。
武政:今日お伝えしたい内容は、「顧客を絞れば、課題がみえる」。この1点をメッセージとして進めていきたいと思います。
改めまして武政と申します。アダコテックでCPOを務めております。以前はラクスルの1事業領域での事業責任者とプロダクトマネージャーをしていました。事業とプロダクトで大きく伸ばしていくことを得意としています。
アダコテックは「製造業×AI」という領域で事業をしています。具体的には製造業の中にある「検品」という工程を独自のAI技術によって自動化していくという価値を提供しております。
元々は産総研の特許を事業化する産業総合研究所という国の研究機関の認定ベンチャーとして設立されました。現在も社員数約20人の小さなチームですが、20億ほどの資金調達を行い、これからが急成長フェーズとなります。
お客様は自動車メーカー、電子部品メーカー、半導体メーカーなどの大企業が中心で、いわゆる「ディープテック」と言われる事業領域になっております。
弊社の事業である「製造業の検査×AI」、書くとシンプルですが、普通に生きていて出会うドメインではないですよね。ここは私も苦労しているポイントになります。また、AI検査自体が社会への実装が進んでいないので、お客様も答えを持っておらず、世界観から一緒に作っていくような市場となります。
そこで今日は「BtoB事業での0→1フェーズ」についてお話していきたいと思います。
アダコテック様 サービス紹介ページ

BtoB事業の0→1フェーズは、プロダクトマーケットフィット(PMF)達成を目指して探索していくプロセスです。
1.事業として成長可能な市場選定とターゲットの特定
2.具体的な顧客課題の特定
3.顧客課題の要求を満たす解決策の特定
4.顧客数をN倍化するプロダクトの提供(PMF)
1から4で一番大事なのは「顧客を絞るところ」。これはまさに弊社が過去に直面した課題が背景にあります。製造業は国で2番目のGDP規模を持つ巨大なドメインで、スタートアップとしてはポジティブにとらえますが、製造業という巨大さにとらわれてしまい、顧客解像度が全然上がっていかないという問題が起こりました。課題がぼんやりしているから、プロダクト開発の効果が高い状態を定義できない状態に陥っていました。

さらにスタートアップは、基本的に調達した資金を用いてPMFを目指すのですが、自分たちの学習や成長と資金が燃えていく時間軸がまったく合わない。「このままではPMFできない」ということが明確になった場面があり、「顧客を絞る」ことについて最初に取り組みました。
最初に行ったのは、製造業という巨大マーケットを僕たちに着手可能なサイズに切り分けて、セグメントに優先順位をつけて手を付けていこうということです。

具体的には製品×部品単位で市場を分割しました。分割したセグメントの中でさらに市場規模や前年度からの成長性などを鑑みて優先度を設定。僕らが今攻めるべきセグメントを特定しました。
製造業の面白いところは、1個1個の部品は独占や寡占が起きているので、その数社を落とすことができれば数千億円のマーケットを取れるというところです。それが見えてきたので、「1社に深く入り込んで顧客課題を発見する」というアプローチに変わっていきました。

また、「課題が見える」と一言で言っても階層があると考えています。
0.顧客の言語理解(MTGで顧客の使う言語を理解できる)
1.現場の課題解決(顧客の現場で発生する課題を解決できる)
2.経営の課題解決(顧客の経営課題を解決できる)
3.市場の課題創出(市場の課題を不可逆的に解決できる)

まず顧客の言語理解についてです。個人的にドメインの学習方法としてよかったなと思ったのが、「What」を優先することです。使用頻度の高い情報とは、お客様の実現したいこと、お客様への価値提供に関するものとなります。そのWhatにフォーカスして知識を入れていくことが効果的です。
また、初学の際にはドメイン分野の資格検定の勉強をすることもおすすめです。僕で言うと品質管理検定やG検定と呼ばれる検定を学ぶと、難易度別に体系的にまとめられている分、学習効率が非常に良かったです。その他、ベストプラクティスのインプット、エキスパートによる勉強会、お客様の現地訪問なども有効な手段です。

課題解決の大きな方向性としては、“インパクト”で伸ばしていくのか、“広さ”で伸ばしていくのか、どちらでいくかが最初の課題設定としてあると思います。例えば、売上10億円を1万社で稼ぐのか、10社で稼ぐのか。それによって当然解決すべき課題は違ってきますよね。
現場の課題解決は“広さ”です。とにかくお客様が多く、再現性が高くて、単価は低いけど、ボリュームがある世界です。ここ10年ほどで成長されたSaaSはSMBをターゲットにして、とにかくボリュームで、ARR数十億、数百億を作られている印象があります。
一方で、“インパクト”軸で見ると、経営の課題は現場の課題に比べて大きいです。例えば現場の課題解決だと年間数万円という単価に対して、経営の課題解決では年間数千万円規模になります。さらに市場を作って独占できれば数億円という世界になってきます。
僕らが今挑戦しているのはインパクト軸の課題解決です。ベストプラクティスが存在していなくて、かなり手探りですが、インパクト軸の探索でも、ルートはあると思っています。

例えばAIなど、市場に存在していない領域が伝統的な産業に対して価値提案していくときにやらなければならないのは、最終的な新しい価値から逆算して、体系を描いた提案です。現場からプロセスを踏んでいく積み上げの課題解決では既存技術との比較、コスト改善が論点の中心になっていくので、それが市場の課題創出に至るのは相当難しいのです。

逆算の課題解決を実現していくために、PM1人ではなくチームでやっていくことが大切。アダコテックは顧客設定を変更したことで、それができるチームから作っていこうという風にしています。しかも、僕ら単独で描くのではなく、お客様と一緒にあるべき姿を描いて、各階層で課題解決をしていくチームを敷いてアクションするようにしています。
例えばチームの中には製造業のエキスパートと機械学習のエキスパートが存在します。彼らはそれぞれ違う言葉を使っていたりするので、事業開発やPMがそこをうまくつないで、顧客価値としてアウトプットできるように立ち回ることが大事だなと実感しています。
経験ないドメインで経営レベルの課題解決というのはとても難しくて。僕がここのレイヤーに行くのにあと何年かかるんだという世界です。スタートアップからすればそれができる人を雇うというのが1つの解決方法だと思います。例えば当社の場合は総合コンサル会社で製造業担当のプリンシパル、CDO(Chief Data Officer)の経験者に参画いただきました。
そして市場の課題創出についてはCEOと経営陣、お客様含めて描いていく形で進めていっています。最後の市場の課題創出は一番難易度が高いですが、一番挑戦したいポイントでもあります。業界に対して新しい標準の仕組みを作る、不可逆的な課題解決が大事です。
顧客を絞ったことで、1人のお客様に使える時間が増えました。そうすることで新しい課題が見え、次に解決すべきものが何か、一緒にどんな社会を作っていくかという話をできるようになってきています。
弊社では鋭意、新しい仲間を募集しております。事業開発、デザイナーなど、いろいろなポジションで募集しておりますので、ぜひ募集ページをご覧ください。
財部:ここからQ&Aセッションに移ります。まずは、林さんに向けた質問を取り上げます。「潜在的な課題を明らかにするコツがあれば教えていただきたいです」
林:言うが易しではありますが、上がってくるいろいろ要望に対して疑ってかかるというか、一歩立ち止まって「なぜそのように言っているのか」を考えることが一番かなと思います。今、弊社のユーザビリティテストは実際のプロダクトを使い、プロトタイプ的なテストは社内の経理担当者を中心に実施しています。ゆくゆくはある程度作り込んだプロトタイプを使ったテストをお客様に対して実施したいと思っています。
財部:社内の経理の方に対してテストを実施されているのですね。会社によっては、サービス開発の専任でエキスパートを雇われるケースもあれば、自社の経理や法務の方に兼任で手伝っていただくケース、両方あるのかなと思いますが、どちらですか。
林:ファーストアカウンティングでは後者です。自社の経理、法務業務を主業務とするメンバーにヒアリングする形をとっています。
財部:武政さん、アダコテック社では社内に専任のドメインエキスパート方はいらっしゃいますか。
武政:カスタマーサクセスと兼任でいます。弊社ではカスタマーサクセスの部署に、検査するカメラのスペシャリストや画像処理系のスペシャリストがいます。彼らが入ってきてくれたからこそ、僕らの解像度が一気に上がりました。お客様目線の考えと、会社としてスケールしていくためにやるべきことやってはいけないことを折り合いつけながらコミュニケーションをとっています。
財部:業界によって変わりますが、ドメインエキスパートの方をカスタマーサクセスとして採用されるというのはいいかもしれないですね。
武政:やはり、ドメインエキスパート方がいらっしゃらないと無理だと思います。この検査にはどのカメラを選定したらいいかという一歩目からわからないので、ここは頼ろうと決めました。
財部:「PMとして判断するのに必要十分なユーザー理解に至ったと思えるのはどんなときですか。インタビューなどの調査にしろ、ユーザビリティテストのような評価にしろ、顧客理解って終わりがないので、区切る判断基準をお持ちであればお伺いしたいです」。ユーザビリティテストやインタビューをして、「これで開発しよう」というゴーサインを出す意思決定基準はありますか。
林:難しくて一概には言い切れませんが、やはり工数と効果で分かれるかと思います。工数が小さて、効果が大きいものがあるならやってしまいます。また、プロダクト初期のユーザビリティテストだと、5人に実施して5人ともに「わかりづらい」と言われた、といったクリティカルなフィードバックをもらえるので、やらなければいけないことは自然に見えてきた感覚はあります。
武政:BtoBでは、プロダクトを作るってそれによって業務プロセスを固定してしまうことだと思うので、例えば、半年後にもっと良い業務プロセスを思いついたけれども、プロダクトが足を引っ張って変えられないといった状況が起こりうる。だからそれが起こらないように「その業務プロセスってこの先2年ぐらい使えるんだっけ?」という問いに対し、NOである限りは作らないという判断基準があります。
財部:インタビューにしてもユーザビリティテストにしても、作ると判断する前に必ず何かしらエビデンスがあるはずなので、それを明らかにした上で作ると判断している会社さんは結構うまく回されている印象がありますね。
財部:次の質問は今回のテーマと大きく重なります。「自身が利用者にならない領域でも課題を発見できるようにするためのヒントを教えていただきたいです」。
林:今思えば私は初期の頃、顧客の業務フローがあやふやな状態で仕事をしていました。ただ、業務フローの理解、顧客のより深い理解がやはり第一歩になると思っています。
武政:アーリーフェーズと成熟したフェーズでは違うと思っています。アーリーフェーズでは、誰も答えを持っていないので基本的に仮説を作ってお客様に当てて、磨ききるしかない。一方で成熟した市場、プロダクトで、お客様が数千数万いる場合は違うやり方ができます。例えば2:8の法則でいう2割のヘビーユーザーがどんな使い方をしているかを知ることで有効な示唆を得た経験は過去にかなりありました。
財部:確かにヘビーユーザーに焦点を当てることは重要ですね。成熟したプロダクトだとヘビーユーザーに関する情報、顧客フィードバックが溜まっているはずなので、それを見ていくだけでもだいぶ解像度は高まっていくかもしれません。
武政:課題を見つけると同時に、そのプロダクトの勝ちパターンを見つけることができると思います。
財部:武政さんへのご質問です。「経営・市場の課題解決を逆算で考えていったとき、顧客に価値提供する順番はどのようにきめていますか?」。
武政:基本的にはボトム、現場の課題解決からしかできないと思っています。ただしそれは、描く未来があり、そのファーストステップとしての今の施策です、といった意味づけをすることが大事です。
財部:逆算して考えるときには、経営陣と一緒に議論を重ねて作っていく形なのでしょうか。
武政:そうですね。弊社の場合であれば、「検査」という工程に対してAIによってどんな世界が実現できるといいのか、そのために自分たちはどのような価値を提供すればいいのか、といったテーマについて、日々悩みながら、経営陣とドメインエキスパートも含めて議論しています。
財部:カスタマーニーズとエンドユーザーニーズのバランスについては、林さんいかがですか。
林:普段接するのはカスタマーが多いので、カスタマーニーズや要望が多くなりがちだと思います。だからこそ意識的にエンドユーザーに体重を乗せるようなバランスにするとちょうど良くなるのではないでしょうか。
財部:エンドユーザーへの意識を持たせるために、先ほどのようなユーザビリティテストやインタビューで接点を持たれることが重要と言うことですね。
林:はい。特に私がデザイナーだからということもありますが、若干エンドユーザー側に体重を乗せることで、全社的にバランスが良くなると感じています。
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